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■中国と世界経済(1998/10/05)
今年5月に中国へ行った。用件は、現在吉林省長春市が進めている中日友好会館の建設に関わることで、一応は仕事だ。といってもオフィシャルな報酬があるのではなく、いわば現物支給、つまり旅費と滞在中の面倒を見てくれるというものだった。それならば、ということで4、5日延長して、北京、上海をこちらは遊びでまわらせてもらった。4年前に初めて訪れた時には、大都市の経済特別区など開放路線のものすごいパワーを目の当たりにしたが、今回は少し違った興味を持っていた。中国は日本にとって益々大きな存在となりつつあるが、地球環境という面では少し違った意味で世界的に存在感が高まっている。そのことについて少しレポートする。
●中国で星が見えなかった話
5月14日のお昼に福岡空港を飛び立ち、先ず降り立ったところは上海空港。国内線への乗り換えで市内へ出る余裕はない。タラップを降りながら、感じるのは石炭の匂い。NOXやSOX、大気汚染、酸性雨などという言葉がセットになって頭をかすめてゆく。
やけに視界の悪い埃っぽい景色を眺めるうち、夕方になって長春到着。長春はラストエンペラー溥儀を擁した旧満州国の首都(新京)だったところで、緑豊かな600万都市だ。杜の都仙台とはその縁で姉妹都市となっているそうだ。それなのに、翌日訪れた現場は異常に埃っぽい。工事現場だからやむを得ないとは言うものの、やはり町全体が乾燥状態に感じられる。思い返せば、晴天なのに上空では視界が悪かった。現場の横を流れる川幅100M強の伊通河も、水量少なく河岸は乾いている。なんと5月というのに今年に入って2日しか雨が降っていないとのこと。(後で文献を調べたところでは、やはり砂漠化している地域までそう遠くはなかった。)
北京へ向かう夜行列車では楽しみにしていたことがあった。大平原の真夜中を満天の星を見ながら突っ走る、そんなロマンチックなこと。いよいよ長春を離れるという時になってにわか雨に襲われた(今年3度目か?)。現地の友人たちとの別れを惜しむ雨にしてはかなり激しい。そして夕空は雲ひとつない快晴となった。さぞかし今夜の夜空は圧巻だろう、と楽しみにしていたのだが、いつまで経っても星が現れない。雲が出てきた様子はない。たしか今頃は見えるはずの火星すら見当たらない。まったく予想していない出来事であった。同室の乗客に筆談で尋ねてみるも、特に不思議ではない様子。これには本当に驚いた。不気味でもあった。しかし、それが大気汚染によるものなのだと納得したのは帰国後のことだった。
●大気汚染の原因は石炭と自動車
中国の大気汚染は深刻な状況にある。それは、国民の健康面ばかりでなく酸性雨や土壌の酸性化などという形で問題が拡大しつつある。中国はエネルギーの大部分(76%)を石炭に頼っている(米国22%、日本17%)。石炭が大気汚染につながる主な理由は、工場の設備が老朽化して効率が悪いことと、それをカバーするために燃料の量を増やしているかららしい。昨年の温暖化防止京都会議でも示されたように、当面の経済発展が最優先課題であり、豊富で安価な石炭はその基盤となっているのだ。
町なかで目にする石炭の集積場や漂う香りからは、これが市民の日常生活においても重要なエネルギー源となっていることが分かる。都市部では冬場になると硫黄酸化物(SOX)や煤塵が数倍に膨れ、大気汚染が一層深刻化するらしいが、これも家庭におけるボイラ−の燃焼効率が悪いために石炭使用量が増大するという悪循環に陥っているからである。
大気を脅かすもう一つの存在が自動車である。中国といえば自転車のイメージがあるが、政府は自動車産業の育成にも大変力を入れている。有鉛ガソリンを使う上、同じく燃料効率の悪い、整備を怠ったトラックやバスが多いため、排ガス問題も深刻らしい。
大気汚染については、国内でまかなえる主なエネルギ−源が石炭であることから、急激な改善は不可能と見られている。むしろ向こう20年間で石炭消費量は倍増するだろうとも見られている。この影響は、夜、星が見えないどころの話ではない。国内では当然健康被害が出ている。中国国家環境保護局の報告(1996.10)によると「都市大気汚染を原因とする慢性気管支炎」により、過去2年間に都市部で300万人もの人が亡くなっている。
●大気汚染に国境はない
さらに、SOX、NOXがもたらす酸性雨は国内の森林や農作物への被害だけでなく、朝鮮半島や日本へも越境している。83年から続けられている環境庁の調査によれば、秋から冬にかけて日本海側の硫酸イオン濃度が高くなることが確認されているが、これは大陸から吹いてくる季節風によるものだ。
産業革命以後のイギリスの深刻な大気汚染は有名であるが、その対策として大気浄化法(1956年)が施行されて煙突が高層化されると、皮肉にもその被害はヨーロッパ全土に広がってしまったという話がある。オランダでは、今でも自国内に降る硫黄酸化物の8割が外国産といわれている。まさに大気汚染に国境は無いのである。過去において大気汚染公害に取り組み成果を出してきた日本は早急に手をさしのべるべきではなかろうか。
●中国を通して見る世界経済
しかしながら、この問題は経済発展を続ける中国が抱える多くの問題のごく一部に過ぎない。中国を通して世界経済の進路を考えてみよう。米国は長く世界人口の5%が世界資源の40%を消費するという世界一の消費大国であったが、今やその地位は中国にとって代わられた。穀物、肉、化学肥料、鉄鋼などの基礎品目の消費で、既に中国は世界一の座にある。GNPも、90年代に入って毎年2桁の伸びを示し、95年には3兆ドルを超えて、米国に次ぐ二位に躍り出ている。人口が巨大であるから総量が大きくなるのは当然ではある。事実、一人当たりの穀物消費量は300kgで、米国の800kgにはまだ遠くおよばない。しかしその増え方は急激である(図)。
さらに、経済発展の国策が着実に国民の所得を上昇させ、肉の消費が増えて飼料用の穀物消費を加速している(図)。肉の消費はその10倍の穀物消費を意味する。即ち、豊かさがますにつれ穀物消費は加速してゆくのである。
【図】 【図】
●すべての中国人が米国人のように肉を食べることは不可能
世界銀行は2020年までに中国が5倍の経済発展を遂げるだろうと予測したが、それは本当に可能なのだろうか。ワールドウォッチの「地球白書」は、これをあまりにも楽観的な経済見通しと次のように批判している。
中国人の肉消費が米国のレベルに達したとき、その牛や豚の餌はどうなるか。中国は世界一の穀物生産国であるが、その需要は自国でまかなえないばかりか、世界中の輸出可能量をも超過するであろう。それでは、日本のように動物性蛋白質の多くを海に求めた場合はどうか。人口1億2500万の日本は年間1000万トンの海産物を消費している。中国12億人では約1億トンの海産物消費となり、これは現在の海洋総漁獲量を上回ることとなる。
人類の5分の1が突然消費時代に突入するという出来事は、いま世界の資源の大部分を消費している先進諸国に、その進路が長続きできないことを気付かせるだろう。新たに10億人の人間が大型乗用車を乗り回したり、ファーストフードのハンバーガーを食べたりすることを、この世界が支えられないことは明らかだ。これは人口9.6億のインドでも、20億のその他の途上国についても同じことが言えるのである。
◇
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